- 弁護士コラム
世の中、物騒になってきた?〜体感治安について〜
弁護士 伊藤 諭
みなさん、「最近、物騒な世の中になってきたなあ」「凶悪な少年事件が多発して怖いなあ」と思うことありませんか。
今回はその実態を探っていきたいと思います。
治安は悪化しているのか
「治安の悪化」と「犯罪の増加」が比例していると考えると、果たして犯罪は増加しているのかを検証する必要があります。
刑法犯の推移
刑法犯の認知件数は、平成元年ころから増加傾向にあり、平成14年に285万4061件でピークを迎えました。その後、急速に減少を続け、平成30年は戦後最少81万7338件となっています。しかも平成27年から毎年「戦後最少」を続けています。
刑法犯はこの15年で7割以上も減少したことになります。
殺人、強盗、傷害、暴行の推移
治安に大きく影響すると思われる殺人、強盗、傷害、暴行の推移も確認してみます。
殺人、強盗、傷害については平成14年をピークに概ね減少傾向にあります。暴行についてはむしろ増加傾向になっています。暴行の件数が増えれば傷害の件数も比例的に増えるべきところ、そうなっていないのは、怪我に至らない暴行であっても通報するケースが増えた結果であろうと思われます。
窃盗
窃盗についても、平成17年ころをピークに大幅に減少傾向が見て取れます。手口別では、空き巣や車上狙いが減少しています。
少年犯罪
少年犯罪についてはどうでしょうか。
少年犯罪においても、平成16年頃をピークに大幅な減少傾向です。少年の人口はそもそも減少しているので件数そのものが減少しているのはある意味当然ですが、対人口比においても減少しています。
少年院入院者について
少年院の入院者数はどうでしょうか。
少年院の入院者数も平成12年(6,052人)を直近のピークとして減少を続け、平成30年には約3分の1である2,108人にまでなっています。
対人口比の検挙人数を「非行率」と捉えれば、「非行少年」は現在の大人からは考えられないほどレアなのかも知れません。
最近は戦後もっとも治安のよい状態
このように統計を見ると、治安が悪化していると評価するべき指数はなく、むしろ戦後もっとも治安のよい時代になっていると考えるべきです。
私たち弁護士の肌感覚でも、この10数年で急激に刑事事件が減少している実感があります。
かつては、橫浜地方裁判所川崎支部では朝から晩まで刑事裁判が開かれていましたが、現在は、1日に数件という日も珍しくありません(ただし、これは重大事件である裁判員裁判が川崎支部では開かれないという事情もあります。)。
体感治安が悪化しているのはなぜか
そうはいっても、なにかだんだん治安が悪化していると感じている人は多いかも知れません。なにか治安が悪化しているという方に対して「実際は悪化してないよ」といっても安心できるものではないのでしょう。
そこで、体感治安が悪化する原因を筆者なりに分析していきたいと思います。
新しい類型の犯罪の発生
既に見たとおり、犯罪全体は減っているのですが、増えている類型もあります。そのうちの1つがいわゆる特殊詐欺(振り込め詐欺、キャッシュカード詐欺盗)です。被害額はピークを越えているものの、認知件数としては依然高止まりをしています。比較的最近生まれた犯罪類型であることや、広報などでの呼びかけの結果、一般の方々にとって不安にさせる大きな要因と言えます。
令和元年における特殊詐欺認知・検挙状況等について – 警察庁
また、インターネット上の名誉毀損や信用毀損など、これまで見られなかった形での犯罪も取り上げられています。
これらに関しては、被害に遭った方が適切に声を上げる風潮が出てきた結果とも言えます。
重大事件を繰り返し報道する
ワイドショーや週刊誌などは、放映時間や誌面の容量が決まっています。つまり、「ネタ」をなんとしてでも埋めなければいけないわけです。
ひとたび、重大事件が起きれば、他の関心事ができるまで1週間も2週間も同じネタを繰り返し繰り返し報道する結果になります。
たとえば同じ殺人事件を1週間報道しつづければ、あたかも殺人事件が続いているかのような不安を世論に与える結果になるわけです。
SNSの普及
もうひとつ無視できないのが、SNSなどインターネット上の双方向やりとりの普及です。ニュースサイトのコメント欄では、刑事事件を不安がるコメントにあふれ、それに対する共感の輪が広がっています。
ツイッターやFacebookなどでも同様の傾向が見られます。
不安に思っているのは自分だけではないと思うことで、かえって不安が増幅する構造です。
正しく怖がろう
犯罪が減っているとは言え、油断するべきではありません。
しかしながら、世の中で起きている状況を適切に把握して、正しく怖がって対策することが必要です。
不安なことは、弁護士に相談しましょう。弁護士の宛てがない方は、各地の弁護士会が主催している法律相談を利用されるとよいと思います。
伊藤 諭弁護士
弁護士法人ASK市役所通り法律事務所
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注:本コラムの内容は、掲載当時の執筆者の知見に基づくものです。その内容について、神奈川県弁護士会川崎支部は一切の責任を負いません。
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