成年後見制度の概要

弁護士 橋本 訓幸

 

2019年までのデータを見ると,全国で成年後見制度の利用者は年々増加しています。川崎市でも,市民後見人の養成を行うなどしており,関心が高いことがうかがわれます。

そこで,本コラムでは,成年後見制度についてなるべく簡単に説明をしてみたいと思います。

なぜ後見人が必要なのか?ということや,後見人を選任してもらう手続きのやり方,後見人の職務についても合わせて説明していきたいと思います(保佐,補助もありますが,以下代表して後見について述べていきます。)。

 

1  制度の概要

(1)   法定後見と任意後見

成年後見制度は,大きく法定後見(成年後見,保佐,補助)と任意後見とに分かれます。

ざっくりといえば,判断能力の問題が生じてから裁判所が後見人を選任するのが法定後見で,そのような判断能力の問題が生じる前に,後見人となるべき人を自ら予め契約して選んでおくのが任意後見ということになります。

 

(2)   法定後見の3類型

法定後見には,後見,保佐,補助とありますが,これらは,対象となる人の判断能力の状態の程度によって区別されます。

法律上の言葉で言えば,3つの区別は下記のとおりで,後見よりも保佐,保佐よりも補助の方が本人にまだ判断能力がある状態ということになります。

 

後見…精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者

保佐…精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者

補助…精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者

 

(3)   制度趣旨

成年後見制度の趣旨としては,判断能力が不十分な人を保護し,支援するというものになります。

私的自治という,自分の財産は自分の意思で自由に管理・処分できるという大原則があるのですが,判断能力が不十分な人にまでこの原則を機械的に当てはめてしまうと,そもそも財産処分を行うことができなかったり,悪い人にだまされて不当に不利な処分を行ってしまったりということが起こりかねません。

そこで,本人に代わって契約をしたり,財産を管理したりする人として成年後見人を選任し,本人保護を図ろうとしたのです。

ただし,本人の自己決定の尊重も必要であり重要なことですので,成年後見制度においては,常に本人の保護と自己決定権の尊重との調和が図られることが求められています。

 

2  後見人がなぜ必要なのか?

(1)   親族等の立場からみた実際的な理由

親族等の立場からすると,本人の判断能力がない状態では,銀行などの金融機関との取引,入所施設との契約,所有不動産の売買・賃貸などといった法律的な事務を行うことができませんので,これらを行うには成年後見制度によらざるを得ません。

また取消権などを使って消費者被害から本人を守るなどの観点で成年後見制度が利用される場合もあります。

 

(2)   利用の注意点

制度を利用することで得られるメリットとしては,これまでに述べたとおり,契約や財産管理(預貯金,不動産など)を後見人が代理して行えるということや,後見人は,本人が単独でした法律行為を取り消すことができるという点が挙げられます。

一方で,これを本人の立場から見ると,財産管理処分権が制限されるということでもあります。

本人にとっては,任意後見の場合を除いて,後見人を自分で選ぶことができないという点も,制度の性質上やむを得ないことではありますが,短所といえなくもありません。

 

3  後見人選任の手続

(1)   申立てを行う人

①本人,配偶者,四親等内の親族

②後見人(保佐人,補助人,任意後見人),各監督人

③検察官

④市(区)町村長などになります。

(①②③は民法,④は老人福祉法など)

 

(2)   どこで申立てを行うか

本人の住所地を管轄する家庭裁判所になります。

なお,住所地とは,生活の本拠地であり,必ずしも住民票所在地ではないので注意が必要です。

川崎市に生活の本拠がある方の場合は,横浜家庭裁判所川崎支部に申立てを行うことになります。

 

(3)   申立てのやり方

「申立の手引き」に従って所定の書類を作成し,提出します。手引や書式は,横浜家庭裁判所のウェブサイトに掲載されています。

https://www.courts.go.jp/yokohama/saiban/tetuzuki/kasaikouken/index.html

 

(4)   誰が後見人になるか

後見人は,様々な事情を考慮して,裁判所が決めます。申立てを行う際に候補者をあげることができますが,そのとおりになるとは限りません。

 

4  後見人の職務

(1)   後見人の職務

①財産管理に関する事務

②生活,療養看護に関する事務

を行うこととされています(民法857条の2参照)。

①がいわゆる財産管理といわれるもので,②が身上監護といわれるものです。

もっとも身上監護といっても,実際に体を動かして身の回りの世話をするというような事実行為まで含まれているわけではないとされています。

 

(2)   実際の具体的な業務

【財産管理に関する事務】

預金口座の開設・管理,各種支払・受取

契約(売買・賃貸借など)の代理

など

 

【生活と療養看護の事務】

介護・医療・生活の契約締結など

 

5  終わりに

成年後見制度について,ざっと説明を行ってきましたが,具体的な場面で生じる法律問題への対処については,一概に言うことができず,個々のケースごとに異なってきます。

弁護士会川崎支部では,成年後見に関する法律相談も可能ですので,具体的なご相談をご希望の方は,ぜひお気軽に弁護士会川崎支部にご連絡ください。

 

 

橋本 訓幸弁護士

川崎ひかり法律事務所

〒210-0005

川崎市川崎区東田町8
パレール三井ビルディング11階1101

 

注:本コラムの内容は、掲載当時の執筆者の知見に基づくものです。その内容について、神奈川県弁護士会川崎支部は一切の責任を負いません。

また,執筆者の登録情報も掲載当時のものです。

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