逮捕・勾留された後の手続と、弁護士の活動

弁護士 楠田 真司

 

1 はじめに

刑事事件は、捜査機関(主に警察)により犯罪の嫌疑をかけられたときに開始します。犯罪の嫌疑をかけられること自体は、例えば過失により車の運転操作を誤る場合や、酒に酔い前後不覚で粗暴な言動をとった場合を考えれば、いつ、誰が対象となってもおかしくはありません。極端なことを言えば、何かの間違いで、全く身に覚えのない犯罪の嫌疑をかけられる場合すらあり得ます。

そして捜査の際には、逮捕の理由と必要があるとされれば、裁判所から令状が発付され、捜査機関により逮捕される事態もあり得ます。

今回は、そのように逮捕された人の身柄がどうなるのか、弁護士にできることは何かを、簡単にご説明したいと思います。

なお、逮捕されずに捜査が続けられる場合も、もちろんあります。そのような事件は「在宅」のまま起訴・不起訴の判断や裁判所の判決を受けることになります。

2 捜査機関に逮捕された後の流れ

 (1)主な流れ

被疑者が逮捕された後の主な流れは、次のとおりです。

逮  捕

↓①48時間以内

検察官送致

↓②24時間以内

勾留請求、勾留決定

|③10日間

|    →勾留延長請求、勾留延長決定

↓       ↓④10日間

終局処分(検察官による起訴・不起訴の判断)

起訴の場合 被告人勾留

↓⑤2ヶ月間

勾留更新

↓⑥1ヶ月ごと

判  決

(2)逮捕~勾留決定まで

上記①②の期間であり、最大で3日間です。

この間、本人は主に警察署の留置施設に閉じ込められ、事実上、弁護士としか面会(接見)ができず、家族との面会すらできない状況に置かれます。

(3)勾留決定~終局処分まで

上記③④の期間であり、最大で20日間です。勾留場所は原則として拘置所というのが建前ですが、警察署の留置施設にそのまま留置されるケースが多いです。

本人はようやく家族等と面会ができるようになりますが、それも多くは1日1回のみ、おおよそ15分程度です。もし勾留決定に「接見禁止」が付されれば、そのような短時間の面会すらできません。

勤務先がある場合は、10日間や20日間の無断欠勤など通常は許容されませんから、事情の説明などする必要があるでしょう。

また、捜査の一環で、繰り返し取り調べを受けることも想定されます。歴史的には、身柄拘束といういわば被疑者自身を人質にとられた状況により、無実の罪を「自白」させられてしまう例も繰り返し生じています。

(4)起訴~判決まで

検察官の判断により起訴された場合には、「被疑者」は「被告人」となり、既に被疑者段階でされていた勾留は、被告人の勾留に切り替わります。

上記⑤⑥の期間であり、初回2か月、その後1か月更新という長期間に及びます。被告人に勤務先がある場合は、更なる欠勤の説明を要するでしょう。

被疑者段階の勾留との大きな違いは、保釈が請求できるところです。もっとも、全ての事案で保釈が認められるということではなく、裁判所から「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」などと判断され、保釈が認められない場合もあります。更に保釈保証金や、通常は身元保証人も用意する必要があります。

判決後は、無罪や執行猶予付有罪判決であればこれらの身柄拘束は一旦終了しますが、執行猶予の付かない実刑判決であれば、更に身柄拘束が続くことになります。

3 弁護士の活動

(1)接見

弁護士は、弁護人として、あるいはこれから弁護人になろうとする者として、基本的にはいつでも被疑者・被告人との接見が可能です。例えば上記①②のような一般の面会が事実上制約される段階や、上記③④⑤⑥で接見禁止が付いている場合であっても、時間的な制限や、警察官の立会いなしに、接見することが可能です。弁護人の接見は、外部から隔絶されている被疑者・被告人にとって、大きな精神的支えとなるはずです。

(2)身柄解放への働きかけ

勾留の必要性(罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれなどの事実)を欠くといった具体的な事情があれば、勾留決定に際し検察官や裁判所に意見を述べ、あるいは出されてしまった勾留決定に対し「準抗告」という手続きをするなどの活動ができます。「準抗告」は裁判官の出した決定が間違っていることを理由とするので一般的には認められ難いですが、認めてもらえる例もあります。

後から状況が変化し勾留の必要性を欠くに至ったときには、勾留の「取消し」を求める手続もあります。

勾留決定の是非とは別に、病気治療のための入院、両親や配偶者の危篤または死亡などの特別な事情により、一時的に勾留の「停止」を求める手続もあります。

起訴後は、「保釈」の請求が可能となります。もっとも、罪証隠滅のおそれなどを理由に不許可となる場合があることは既に述べたとおりですので、裁判官に対し、そのような保釈不許可事由がないこと、あるいは裁量による保釈が適当であることを、資料を示すなどして説得的に論じることになります。さらに、親族等に保釈保証金の用立てをお願いしたり、身元保証人の候補者に打診をするなどします。

(3)示談活動

弁護人は被疑者・被告人の代理人として行動できますので、被害者がいる場合、被害者の承諾の下で連絡が取れれば、示談活動が可能です。これにより被害者が許してくれる場合はもちろん、一部・全部の損害を回復した事実のみであっても、身柄の解放や、起訴・不起訴の判断、更には最終的な判決についても、少なからず影響を与えます。

(4)その他

他にも弁護人は、被害者に謝罪文を送付する、家族・職場へ連絡をするといった、様々な活動をします。今回は逮捕・勾留といった身柄に関する活動を主に述べていますが、刑事裁判に向けた活動も、もちろん行います。

あるいは否認事件であれば、被疑者が犯人ではないという積極的な証拠を収集する活動などもあり得るでしょう。

なお、逮捕前の希な例ですが、「自首に同行する」という活動もあります。自首で逮捕を免れるわけではありませんが、本人の反省と代理人の就任、ひいては逮捕・勾留の必要性がないことを示しやすくなるかもしれません。

4 おわりに

以上のとおり、万が一にも逮捕されるようなことがあれば、長期間の身柄拘束により、人生が大きく変わってしまう可能性があります。しかし、その影響は、弁護士への依頼により、最小限に抑えることができるかもしれません。留置場所に近い弁護士であれば、接見への行きやすさなど立地の面では有利です。お困りの際には、まず弁護士にご相談いただければと思います。

 

楠田 真司 弁護士

川崎ひかり法律事務所

〒210-0005

川崎市川崎区東田町8番地
パレール三井ビルディング11階1101号室

川崎ひかり法律事務所 (kawasaki-hikari.com)

 

注:本コラムの内容は、掲載当時の執筆者の知見に基づくものです。その内容について、神奈川県弁護士会川崎支部は一切の責任を負いません。

一覧に戻る