- 弁護士コラム
債権回収について
弁護士 村上 淳平
1 債権回収の場面
よく相談を受けるケースの一つが、債権回収です。お金を返したけれど約定どおり返済してくれない、工事を請負いその仕事を完成させたけれど、報酬金を支払ってくれない、交通事故の被害を受けたけれども加害者が無保険で任意の支払いに応じない、など。
こういった場合は、相手方に対し債権(貸金返還請求権、請負報酬請求権、損害賠償請求権)を有しているものの、その実現が容易ではないということになります。
2 債権回収の方法
債権回収の方法として、大雑把には、①交渉により任意に支払わせる、②訴訟や支払督促にて債務名義を取得し、強制執行する、③民事保全を行う、ということが考えられます。
①については、一旦支払いを拒絶されてしまうと、当事者間での解決は膠着状態になってしまうことが多いでしょう。この場合には、弁護士を代理人として介入させることにより、状況が変わる場合があります。
②については、相手方の「任意」の支払いが期待できないため、「強制」的に債権を回収する方法です。ただし、いきなり強制執行をすることはできず、訴訟では判決、支払督促においては仮執行宣言付支払督促といった「債務名義」を取得する必要があります。裁判所の審理・審査により実体的な権利関係を確定した後に、強制執行を行うというわけです。強制執行のためには、さらに裁判所に強制執行の申立てをする必要があります。言い換えれば、訴訟で勝訴したとしても、裁判所が自動的に相手方から債権を回収してくれるわけではないということになります。
強制執行のうち、「差押え」の対象財産として代表的なものとしては、預金口座、給与、第三者への債権、不動産が挙げられます。ただし、いずれも財産の特定を債権者側で行う必要があり、なかなか容易ではありません。預金口座に関して言えば、差押えの時点の残高しか押さえることはできないため、空振りに終わることも少なくないでしょう。
③については、債務名義を取得する前に、予め、相手方の財産を保全してしまう方法です。
例えば、事前に、相手方の預金口座が知れており、かつ、残高が存在することがわかっていれば、この口座を「仮に」差し押さえてしまうということです(その後、訴訟にて権利関係を確定して、強制執行を行うということになります。)。
この方法によれば、相手方に知られずに手続きを進めることが可能であり、債務名義取得後(あるいはそれよりもっと前)に相手方が対策をする(預金口座から預金を引き出すなど)ことを予防でき、債権回収の可能性は高まります。ケースによっては、仮差押えをした段階で、相手方がお手上げとなり任意支払に応じることもあります。
ただし、デメリットもあり、裁判所の審査を受ける必要もあります。ここでは、自身がたしかに相手方に債権を有しているということについて、客観的資料を示して説得的に説明する必要があります。また、一定割合の担保金を積む必要もありますし、事前・事後の手続きは簡明とはいえず、時間・労力・専門的知識などを要すため、経験がものをいいます。
3 事前策
前項の債権回収は、有事の際の方法ですが、事前に備える方法として、保証を入れる方法があります。代表的には、人的保証として(連帯)保証人、物的保証として相手方(または第三者)の所有不動産への抵当権の設定などがあります。
相手方との契約時にこのような事前策を練りこんでおけば、債権回収の可能性は格段に高くなります。
あとは、常識的な話になりますが、そもそも信用できない相手とは取引をしないことです。
交通事故などの不法行為については、事前策がとれませんが、例えば交通事故に関しては、自身の加入する自動車保険の中で、人身傷害保険、車両保険、弁護士費用特約などをつけておくと安心でしょう。人身傷害保険は、事故による怪我により治療費・慰謝料などの被害が発生した場合に、車両保険は、事故による車両損害について、自身の加入する保険会社が一定金額までの支払いを補償するものです。弁護士費用特約は、交通事故による被害を受けた際に、加害者側と交渉するための弁護士費用を自身の加入する保険会社が負担するものです。
4 破産の場合
なお、契約の相手方が破産してしまった場合、裁判により債務名義(判決の言い渡し)を取得していたとしても、現実的な回収は非常に困難になります。預金口座など仮差押えをしていたとしても、優先弁債権はありません。
5 最後に
一旦支払いを拒絶した相手から債権を回収することは容易ではありません。どのような手段をとり、どのように財産を調査するか、先を見据えて計画的に進めることが重要です。費用対効果の観点もあります。
このような場合には、是非一度、弁護士に相談することをお勧めします。
村上 淳平 弁護士
京浜法律事務所
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