- 弁護士コラム
弁護士と更生支援計画
弁護士 狩野 直哉
1 懲役刑の廃止と再犯防止
今年(令和7年)の6月1日から「懲役刑」が廃止されることをみなさんはご存じでしょうか。
身体の自由を奪う刑罰(刑務所に行く刑罰)としては、懲役刑と禁固刑があります。
この2つは「刑務作業」を行うことが義務づけられているかどうかで区別されてきました。この両者を廃止し、「拘禁刑」に一本化する法改正がなされたのです。
「拘禁刑」では、受刑者個々の特性に応じて、刑務作業を行うかどうかが決定されるため、受刑者にあわせた更生と再犯防止に必要な作業と指導が可能になるとのことです。
このように罪を犯してしまった人の立ち直り(更生)をサポートしていこうというのが時代の流れといえるかもしれません。
このような流れの中、立ち直りのサポートのために弁護士として何ができるのかというのが本コラムのテーマです。
2 更生支援計画との出会い
私は弁護士として刑事事件の国選弁護人を務めることがあります。
罪を犯してしまった人が立ち直るための支援(更生支援)は、特にその人に障がいがあったり高齢者であったりすると、支援の専門家ではない弁護士の力だけで行うのは難しいと感じてきました。
そのような中、神奈川県弁護士会と提携する福祉関係者(社会福祉士等)の協力を得て、福祉関係者に「更生支援計画」を作成してもらい、
この計画に基づいた支援を行うという手法があることを知りました。この更生支援計画との「出会い」によって私の刑事弁護活動の幅は大きく広がったと感じています。
なお、社会福祉士さんは日常生活を営むのに困難な人々の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、公的サービスを受けるための行政手続の代行などの仕事をしてくださいます。
このような福祉の専門家と連携することで罪を犯してしまった人のサポートをより適切にできます。
3 更生支援計画とは
更生支援計画とは、福祉的な支援が必要な人(高齢者や障害のある方)のために、その障がいの特性や病状を踏まえて、同じ行為を繰り返さないために必要な支援をまとめた計画のことをいいます。
住む場所(受け入れ先)の紹介や福祉サービスの申請支援など計画の内容は多岐にわたります。
この計画を作成するにあたっては、社会福祉士などの専門家が本人や家族と面会を重ね、また場合によっては行政や福祉施設などの関係機関と調整を行います。
4 「出口支援」から「入口支援」へ
国内の更生支援は刑務所から出所したあとの支援(「出口支援」)がメインであったとされます。
今後は、刑務所に入るかどうか決める前の捜査・裁判(公判)の段階での支援(「入口支援」)にも力を入れていく必要があります。この入口支援の段階は弁護士が関与する捜査や裁判の場面ですので、弁護士も更生のための支援に取り組むことができます。
私の経験した案件では、福祉関係者に協力して更生支援計画を作成していただき、ご本人もご家族も安心して生活できる施設入所までつなげることができました。
もちろん、ご本人が刑務所に行くことを余儀なくされる案件もありましたが、出所後の環境整備などを福祉関係者と共に行うことは大切だと思います。できることを行うことで刑務所に行く期間が短い判決がなされたような気がしますし、何よりもご本人の立ち直りへのモチベーションが高くなっているように見えました。
5 日本弁護士連合会と神奈川県弁護士会の費用援助
ここまでの話を読まれて、「福祉関係者の協力を得られるといっても、福祉関係者や弁護士の費用(報酬)は誰が出すんだ?」と疑問に思われた方もいるかもしれません。
国の費用負担で弁護人がつく「国選弁護」の案件では日本弁護士連合会(日本全国の弁護士が加入する団体)や神奈川県弁護士会(神奈川県の弁護士が加入する団体)が費用を援助する仕組み(制度)があります。
この制度では65歳以上の高齢者で支援が必要な方や、知的・精神障害のある方が援助の対象となります。
日本弁護士連合会の制度は2023年に創設され、その後1年半で240件の利用があり、総額約2300万円の支出(援助)があったそうです。
なお、神奈川県弁護士会ではこの制度に先だって独自の支援制度を創設していました。そして、現在も日本弁護士連合会の制度と併用して費用の援助を受けることができます。
6 弁護士の役割はあくまで「本人ファースト」であるべきこと
更生支援や再犯防止についてここまで書いてきましたが、更生支援や再犯防止を強調しすぎると、ご本人の意向を無視した支援の計画を立てることになってしまう危険性があります。
誤解をおそれずに言えば、弁護人の役割はあくまで本人のために働くものです(いわば「本人ファースト」です)。
とはいえ、弁護人もひとりの人間ですので、「本人は嫌がっているけれども、こうした方が本人のためになる」といった考えが頭に浮かびます。
それでも本人が嫌がっていることを強制しても意味はありませんので、本人とよくお話をしてよいかたちを探していかなければなりません。
更生支援は「正解」のあるものではありませんが、専門家(福祉関係者)と協力をしながらこれからも案件に取り組んでいければと考えております。
狩野 直哉 弁護士
小山法律事務所
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注:本コラムの内容は、掲載当時の執筆者の知見に基づくものです。その内容について、神奈川県弁護士会川崎支部は一切の責任を負いません。
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