「裁判」ってどんなもの?

弁護士 市川知明

1 はじめに

皆さんは,「裁判」とか「裁判官」という言葉を聞いて,どんなイメージを持たれるでしょうか。「自分には関係ない」「裁判官って近寄り難そう」「裁判は正義を実現する場だ」など,色々なイメージがあるかもしれません。
そして,「裁判で弁護士は何をしてくれるんだろう?」「弁護士をつければ裁判に勝てるのかな?」などの疑問をお持ちかもしれません。
ここでは,一般的な民事裁判(個人の権利を実現するための裁判手続をいいます。)の典型である「貸金返還請求事件」,つまり貸したお金を返すよう求める裁判(訴訟)を例にとって,裁判の流れや裁判官の考え方,裁判の中で弁護士が何をするのかなど,簡単にご説明できればと思います。

 

2 裁判では何をする?

民事裁判は,原告(裁判を起こした人のことをいいます。)が「訴状」を裁判所に提出し,裁判所が訴状を受け付けるところからスタートします。訴状には,例えば「平成31年2月3日,被告にお金を200万円貸した」「返済期限である令和元年10月3日が過ぎたにもかかわらず,被告から一切返済がない」というような主張を記載した上で,「被告は原告に対し,200万円を支払え」という形で,求める結論を記載することになります。また,契約書や借用書など,お金の貸し借りがあったことの証拠を一緒に提出することが一般的です。
裁判所は,訴状を受け取ると,内容を点検し,形式的な不備がなければ,被告(裁判で訴えられた人のことをいいます。刑事裁判の「被告」(正式には「被告人」といいます。)とは異なります。)に訴状を送ります。これを「送達」といいます。
被告は,訴状を受け取ると,1か月程度の期間内に「答弁書」を提出しなければなりません。答弁書とは,訴状に書かれた事実関係に対する反論や被告側の主張などを書いた書面をいいます。仮に,原告の請求が身に覚えのない不当請求であったとしても,被告が答弁書を提出せず,裁判にも欠席すれば,無条件に敗訴してしまいます(欠席判決)ので,注意が必要です。
その後,1か月に1回程度行われる裁判期日で,原告・被告それぞれが主張・反論を繰り返します。例えば,被告からは,お金を借りたのではなく「贈与」を受けたのだという反論や,原告への返済は既に完了したという反論などがされることもあります。
原告・被告それぞれの主張・反論が出尽くしたら,証人尋問や当事者本人への質問の手続が行われた上で,裁判での審理が終わることが一般的です。なお,適宜のタイミングで,裁判所が「和解」の話合いを提案することも多くあります。
裁判での審理が終わると,概ね1~2か月程度先に,判決期日が指定されることが一般的です。
判決期日では,判決の言渡しが行われます。判決結果にお互い不満がなければ,判決結果が確定します。逆に,いずれかの当事者が判決結果に不満があれば,「控訴」「上告」の手続により,さらに争うことになります。

 

3 裁判官の考え方

裁判では,裁判官は「公平中立な第三者」として判断を行います。そして,その判断は,原告・被告が提出する証拠に基づいて行われます。
例えば原告が「私は確かに被告に200万円を貸した!」「被告は借りていないと言っている,嘘つきだ!」といくら声高に主張したとしても,証拠がなければ,原告の請求は認められにくいでしょう。
裁判所は,被告に謝罪をさせたり,被告の嘘を暴き,真実を明らかにすることに力を貸してくれるとは限りません。裁判官はあくまで,原告の主張する「貸金返還請求権」という権利があるか否かを,証拠に基づいて冷静に判断します。
原告としては,「証拠がなければ何も認めてくれないのか」という気持ちになりますが,逆の立場から考えれば,やむを得ないことです。もし証拠がないのに原告の請求が認められてしまえば,嘘の請求をでっち上げても請求が認められてしまうからです。そのような事態を避けるため,裁判官は,証拠に基づいて,第三者の目線で判断します。
ただし,友人や親族との間のお金の貸し借りでは,借用書や契約書を作らないことも多いと思います。そのような場合でも,お金の貸し借りが推測できるような証拠を提出すれば,請求が認められる可能性があります。

 

4 弁護士は裁判で何をするのか

本来,裁判は弁護士に依頼しなくても,自分で行うことができます。ただ,自分で裁判をするとなると,訴状などの書面を作成したり,自分で裁判所に出向いたりする必要があります。裁判独特のルールや関係する法令を知っている必要があります。裁判においてどのような証拠が効果的なのかも知らなければいけません。ですから,一人で裁判を行うことは難しいことが多く,弁護士に依頼することが有効なのです。
例えば,原告側に借用書も契約書もない事案であっても,通帳の履歴やメールでのやり取り,周囲の人の証言などを積み重ねることで,原告がお金を貸したことを裁判所が認めてくれる場合もあります。
ただ,弁護士に依頼したからといって,必ずしも勝訴できるわけではありません。もし弁護士をつけただけで必ず勝訴できるとすれば,お互いが弁護士をつけたら,どちらも勝ててしまうことになります。もちろん,そうではありません。どちらかが勝てば,どちらかは負けるのです。
弁護士は,手持ちの証拠や相手方の主張などを検討する中で,難しい事件でなければ,ある程度は勝敗の見通しを立てることができます。仮に負ける可能性の高い事件であっても,弁護士であれば,最大限の主張をした上で,少しでもダメージの少ない「和解」を選ぶという選択肢を検討することもあります。
このように,弁護士がついたとしても,それだけで「負け戦」が「勝ち戦」になるわけではありませんが,弁護士は,依頼者の味方として,少しでも裁判がよい結果になるように工夫を重ねます。

 

5 おわりに

皆さんのうちの多くは,裁判を経験したことがなく,また裁判に馴染みのない方々だと思います。ですが,弁護士は仕事として,数多くの裁判を対応しています。裁判を弁護士に依頼する場合,相応の弁護士費用はかかりますが,弁護士が心強い味方となってくれるはずです。
裁判のことはもちろん,日常生活の中でお困りのことがあれば,お気軽に弁護士にご相談ください。

 

 

市川 知明弁護士

弁護士法人エースパートナー法律事務所

〒210-0005

川崎市川崎区東田町5-3
ホンマビル7階

 

注:本コラムの内容は、掲載当時の執筆者の知見に基づくものです。その内容について、神奈川県弁護士会川崎支部は一切の責任を負いません。

また、執筆者の登録情報も掲載当時のものです。

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