- 弁護士コラム
寄与分・特別受益の時的限界(令和3年民法改正)
弁護士 中尾 容子
1 はじめに
令和3年民法改正(施行日令和5年4月1日)により,寄与分・特別受益の主張にタイムリミットが設けられましたので,皆様への注意喚起を込めてコラムを執筆します。
2 遺産分割協議と寄与分・特別受益の制度について
被相続人が遺言なくして死亡し,法定相続人が複数いる場合,各共同相続人は個々の相続財産について,法定相続分に基づき持分を有する(「遺産共有」民法898条1項)ことになりますが,この遺産共有状態を解消するためには,共同相続人間で遺産分割協議を行わなければなりません。
民法は画一的な一定の相続割合(法定相続分)を定めていますが,これは,被相続人と各法定相続人との個別の関係や被相続人死亡までの経緯を一切考慮していません。
父の共同相続人として息子2人がいるケースを例にとりましょう。弟は父の家業を継いで事業を発展させ,父の遺産の増加に貢献し,父が病に倒れてからは自身の費用を支出して誠心誠意介護をしてきました。一方,兄の方は,夢を追って家出をし,勝手気ままな生活をした挙句,父に金を無心して仕事場にするマンションを買うお金まで出してもらったとしましょう。弟としては,なぜそんなごくつぶしの兄と,真面目に頑張ってきた自分の相続分が同じ割合なんだと強い不満を持つはずです。
このような法定相続分での分割が不公平な場合に,相続人間の実質的公平を図るため,民法は,「寄与分」や「特別受益」という制度を設け,法定相続分に一定の修正を加えることを認めています(具体的相続分)。
上の例でいえば,「寄与分」は,弟が自分の貢献度を主張して遺産を多めにもらう制度,「特別受益」は,弟が兄に対して,兄がすでにマンションを買うお金を出してもらったことで遺産の前渡しを受けていると主張し,兄の取り分を減らす制度です。
個々の相続人の具体的相続分は,
→[①みなし相続財産の価格(相続財産の価格+特別受益の総額-寄与分の総額)]×②法定相続分-③個々の相続人の特別受益の価格+④個々の相続人の寄与分の価格
という計算方法で算出されます。
3 寄与分・特別受益に関する時間制限
(1)これまでの取り扱い
これまで,寄与分や特別受益を考慮する遺産分割協議の請求については時間制限が一切ありませんでした。早く遺産分割をしなければというインセンティブが働かないので,事態を放置している間に相続関係者が膨大に膨れ上がることも多々ありました。
私も,全国津々浦々に合計100名以上の相続関係者がいる遺産分割調停事件を受任し,苦労した経験があります。また,長期間経過した後にいざ寄与分や特別受益の主張をしようにも,証拠を紛失していたり,証人が亡くなっていたり,などということも起こり得ます。
そこで,今回,具体的相続分による分割を求める相続人からの,早期の遺産分割請求を促すため,民法904条の3(経過措置として改正法付則3)が新設され,タイムリミットが設けられました。
(2)新設されたタイムリミット(民法904条の3)
民法904条の3は「相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は,具体的相続分ではなく,法定相続分による」と規定しています。
すなわち,被相続人が死亡(相続開始)してから10年が経過すると,原則として,寄与分や特別受益の主張ができなくなり,法定相続分を基準とした遺産分割しかできなくなります。(①10年経過前に家庭裁判所に遺産分割請求をした場合,②期間満了前6か月以内に止むを得ない事由が相続人にあった場合において当該事由消滅時から6か月経過前に当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をした場合,③相続人全員が具体的相続分での遺産分割に同意した場合,は例外)
令和5年4月1日(施行日)以降,寄与分や特別受益の主張をしたいと考えている側は,うかうかしていると時間制限を食らってしまうので注意が必要です。
(3)経過措置(令和3年民法改正付則3)
今回の改正では,民法改正附則3により経過措置が定められ,法律施行時(令和5年4月1日)以前に被相続人が死亡していた場合にも,効力が及びますので注意してください。改正による時間制限を下記にまとめました(いずれも例外あり)が,既に相続が発生していても,施行時から少なくとも5年間の猶予期間があります。ご参考になさってください。
① 相続発生日(被相続人死亡日)が令和5年4月1日以降の場合
→相続発生から10年経過時
② 相続発生日が令和5年4月1日より前
→相続発生から10年経過時または施行時から5年経過時(令和10年4月1日)のいずれか遅い方
中尾 容子弁護士
田中・渡辺・中尾法律事務所
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