情報流通プラットフォーム対処法の施行/近時の発信者情報開示請求実務の実情について

弁護士 稲葉 進太郎

 

第1 情報流通プラットフォーム対処法が施行されました

1 はじめに

 

インターネット上の誹謗中傷は、引き続き大きな問題となっています。

総務省が運営を委託する違法・有害情報相談センターに対する相談件数は、平成27年には5000件を超え、令和4年には約5700件と高止まりになっています。

その中で特に大きな問題となっているのが、SNS等による誹謗中傷といえるでしょう。

誹謗中傷の記事をそのままにしておけば、より多くの人の目に触れ、被害が拡大することとなります。

そこで、記事の削除が選択肢となります。

誹謗中傷の記事を削除するためには、裁判所を通じた手続による方法もありますが、

掲示板やSNSを管理する事業者に連絡して削除してもらう方が、直接的であり、金銭的・時間的なコストも低く、手続のハードルも低いといえます。

もっとも、これまでは、事業者に連絡するための窓口がわかりづらい、迅速に対応してもらえない、などの問題がありました。

以上の状況を踏まえ、今般、投稿記事削除についての法改正が行なわれ、令和7年4月に施行されました。

法律の名称も、従来の、プロバイダ責任制限法(略称)から、情報流通プラットフォーム対処法(略称)に変更されました。

本コラムでは、被害者の視点から、今回の法改正の重要なポイントを、関係条文とともに解説します。

 

2 ポイントごとの解説

 

(1)対象となる事業者に迅速な対応が義務化

今回の改正で重要なのは、掲示板やSNSなどを運営する大手事業者に対し、削除に関する対応を義務付ける新たなルールが導入された点です。

その対象は、特に権利侵害が起こりやすい大規模なサービスを提供する「大規模特定電気通信役務提供者」(以下では「対象事業者」といいます。)として、総務大臣が指定した事業者です。

対象事業者には、主に以下の3つの義務が課せられました。

 

①削除申出のための「窓口」の整備・公表義務(法第22条、規則13条)

これまで、削除を申請する窓口がわかりづらいことが多いという問題が指摘されていました。

そこで、対象事業者には、被害者が削除の申出を行うための窓口を整備・公表することが義務付けられました。

この窓口は、単に設置するだけでなく、日本語で申出ができ、申出をする人に過重な負担を課さず、受付した日時が申出者に明らかにならなければならない、等の要件を満たす必要があります。

これにより、対象事業者に対する削除申出が、円滑になることが期待されます。

 

②侵害情報調査専門員の設置(法第24条)

対象事業者が海外事業者の場合、日本の法律や文化的・社会的背景を理解してもらう必要があります。

そこで、今回の改正では、対象事業者は「侵害情報調査専門員」を選任することが義務付けられました。

総務省のガイドラインによれば、侵害情報調査専門員について、「具体的には、法令の知識又は文化的・社会的背景の理解の観点から、弁護士等の法律専門家や日本の風俗・社会問題に十分な知識経験を有する者(自然人に限る。)が考えられる。」とされています。

この専門員が置かれることで、実態に即した適切な判断が期待されます。

 

③一定期間内に判断し通知する義務(法第25条、規則16条)

これまで、削除申出をしても放置されることがあるとの指摘がありました。

そこで、対象事業者には、原則として、申出を受けてから7日以内に、削除するかどうかの判断結果を、申出者に通知することが義務付けられました。

削除しないこととした場合、その理由もあわせて通知しなければなりません。

やむを得ない理由で期間内に判断が難しい場合でも、専門員により調査中である旨等を、期間内に一度通知する必要があります。これにより、被害者は、自身の申出がどう扱われているかを把握でき、次の対応を検討しやすくなります。

 

(2)透明性の確保

これまでの削除対応は、基準が不透明で、事業者によって対応が異なるのではないかといった指摘がありました。今回の改正では、事業者の対応の透明性を高めるため、以下の義務が導入されています。

 

①削除基準の策定・公表義務(法第26条)

対象事業者は、どのような投稿を削除するのかについて、削除措置の実施基準を、具体的であり分かりやすい表現で策定し、公表しなければならなくなりました。

総務省のガイドラインによれば、基準の具体性について、「法律用語のみならず、世間一般で用いられている表現を用いて、誹謗中傷、海賊版(略)などのカテゴリ別に明快に記述すべきである。」とされており、基準の分かりやすさについて、「分かりやすい日本語で記載されている べきである。」とされています。

これにより、被害者は、より的確な削除申出を行うことができ、投稿者は事前にどのような投稿が削除対象となるのか予測できるようになります。

 

②運用状況の公表義務(法第28条)

対象事業者には、年に1回、措置の実施状況等をまとめた報告を公表することが義務付けられました。これにより、社会全体で対象事業者の取組を監視・評価し、より誠実な対応を促すことになります。

 

3 まとめ

全ての掲示板・SNS事業者が対象事業者となっているわけではありませんから、この点は今後の課題といえますが、

投稿記事の削除において、被害者救済のための制度は大きく前進したものといえるでしょう。

もしあなたが今、インターネット上の心無い投稿記事に苦しんでいるのであれば、決して一人で抱え込まず、記事削除に関するこの新しい制度の活用をご検討ください。

 

第2 近時の発信者情報開示請求実務の実情

1 はじめに

第1では、削除請求について取り扱いました。

以下では、記事を投稿した人を特定するための、発信者情報開示請求の実務の実情についてコメントさせていただきます。

 

2 2022年改正とその影響

改正プロバイダ責任制限法が2022年10月1日に施行されるより前、裁判所を通じて発信者を特定するには、

仮処分という手続により、SNSや掲示板等を運営するコンテンツプロバイダ(以下では「CP」といいます。)からIPアドレスを取得し、

該当の接続プロバイダ会社を被告として訴訟提起するのが一般的な仕組みとなっていました。

そして、2022年10月1日の改正法施行後、「発信者情報開示命令」という手続が導入され、

訴訟提起をしなくても発信者の特定ができることとなり、手続が迅速になることが期待されました(前回の記事も御覧ください https://kanaben-kawasaki.jp/news/669/ )。

この改正により、手続が迅速になったことは間違いないでしょう。

 

3 従来からの仕組みの活用の必要性

改正により新しい制度が導入されたものの、IPアドレスの開示に関し、発信者情報開示命令申立を経て、裁判所による決定が出ても、

直ちには開示の手続をとらなかったり、提供命令に従わなかったりするCPも存在します。

このようなCPからの開示を漫然と待っていては、接続プロバイダにおける通信記録が消滅してしまいます。

そこで、開示を認める決定が出てからなるべく早く強制執行の手続をとる必要がありますが、発信者情報開示命令には、決定から1か月ほど待たないと強制執行ができないという欠点があります。

そこで、このようなCPからIPアドレスを迅速に開示してもらうためには、決定が出てから直ちに強制執行に移れるよう、

発信者情報開示命令ではなく、改正前から利用されていた仮処分の手続を利用すべきということとなります。

その他、強制執行を経ないと開示が期待できないと予測されるような、運用が不透明なCPを相手方とする場合においても、仮処分の手続の活用が考えられるでしょう。

このように、2022年施行の改正法における発信者情報開示命令や提供命令も万能ではなく、相手方となるCPにより、申立側が手続選択を工夫する必要があるでしょう。

 

4 時間的な余裕について

法改正によっても、CPや接続プロバイダにおける通信記録保存期間が延長されるわけではなく、

引続き、IPアドレスによる発信者情報開示の時間的な制限は非常に厳しいものとなっています。

したがって、投稿記事について発信者情報開示を考える場合、直ちに弁護士に相談するのが良いでしょう。

一方で、古い記事でも、時間的な制限にあまり左右されない方法で開示ができることもありますので、いずれにせよ、まずは弁護士に相談してみるのが良いでしょう。

 

5 誹謗中傷等の内容に対する判断について

発信者情報開示命令の手続は、もともと訴訟で実施していた審理を非訟手続により迅速に進めることとなったものですが、判断枠組みが変わったわけではありません。

したがって、昔は認められなかった表現について開示がしやすくなった、とまでは言い難いでしょう。

 

6 まとめ

発信者情報開示の手続は、発信者情報開示命令の導入により、弁護士ではない方も利用しやすくなりましたが、

やはり、ある程度の専門的知識が不可欠であり、初めて利用する方にとってはハードルが高いものです。

発信者情報開示をお考えであれば、失敗しないために、まずは、弁護士にご相談になることをお勧めいたします。

 

稲葉 進太郎 弁護士

川崎パシフィック法律事務所

〒210-0007

川崎市川崎区駅前本町11番地1

パシフィックマークス川崎ビル8階

TEL  (044)211-4401

 

注:本コラムの内容は、掲載当時の執筆者の知見に基づくものです。その内容について、神奈川県弁護士会川崎支部は一切の責任を負いません。

また、執筆者の登録情報も掲載当時のものです。

一覧に戻る