裁判まではしたくないとき

弁護士 鈴木 志帆

 

法律相談の際に、相談者の方から「できれば話し合いで解決したい」「家族間の問題だから、裁判まではしたくない」という声を聞くことも多いです。

今回は、民事上の紛争を想定して、裁判以外の解決方法のうちのいくつかをご紹介したいと思います。

 

1 示談交渉

話し合いによって紛争解決の合意を目指す方法です。

弁護士が示談交渉をする場合、一般的には、依頼者と相手の言い分や証拠を検討し、仮に裁判となった場合の予測を立てた上で、合理的・実情的な着地点を探りながら合意形成を目指します。

また、仮に合意形成できた場合は、通常は、後日の紛争予防のため、合意書にしたりそれを公正証書にしたりするなどし、証拠として残しておきます。

示談交渉のみで合意できた場合は、一般的には裁判をするよりも時間や費用も抑えられます。

 

2 民事調停

裁判所において当事者が話し合い、合意形成を目指す方法です。

具体的には、当事者双方が裁判所に出頭し、調停委員会(裁判官と調停委員で構成される委員会)が当事者双方から話を聞き出して合意形成を目指します。なお、弁護士に依頼した場合は、弁護士が代理人として民事調停に出頭することも可能です。

民事調停を利用した場合のメリットには、一般的に以下の点があります。

(1)第三者を介した話し合いが可能

調停委員会は、法的・専門的な視点を踏まえた上で、紛争の実情にあった解決法を探りながら話し合いを進めていきます。当事者同士で話し合うよりも、客観的・専門的な視点が入るため、話し合いがより迅速かつ柔軟に進むことが期待できます。

(2)非公開の手続

民事調停は裁判所で行われる手続きですが、一般に公開されません。

(3)手数料が低額

裁判手続きに比べて、裁判所に収める手数料(収入印紙代)が半額程度で済みます。

(4)調停調書が債務名義となること

民事調停が成立した場合、合意内容が記載された民事調停調書が作成されます。この調停調書は、確定判決と同一の効力を有する債務名義となります。

例えば、調停調書に金銭の支払いの合意の記載があったのにもかかわらず支払いがされない場合は、調停調書に基づき、強制執行の申立てをすることが可能となります。

 

3 ADR(裁判外紛争解決手続)

訴訟手続によらずに、公正な第三者が関与して、民事上の紛争の迅速かつ実情に即した解決を図る手続です。

日本では、2007年4月1日に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(略称ADR法)が施行され、同手続きが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢として適切に活用されることが促進されました。

ADRには、主に①調停・あっせん(調停人またはあっせん人が、当事者間の紛争解決を目指して仲介をする手続)と②仲裁(当事者が、紛争の解決を第三者である仲裁人の判断に委ねることに合意し、その判断に従うことで紛争を解決する手続)があります。

また、ADRの実施機関は、裁判所(上述の民事調停)や行政機関(国民生活センター等)、民間機関(弁護士会等)など様々です。対象となる紛争の種類も、交通事故や建築、不動産、労働など、多岐に渡ります。

なお、神奈川県弁護士会では、①紛争解決センター、②神奈川住宅紛争審査会、③日弁連交通事故相談センター神奈川支部の3つの機関でADRを実施しています(※1)。

ADRを利用するメリットとしては、公正な第三者(専門家)が関与し、実情に即した解決を目指すため、迅速かつ柔軟な解決が期待できること、手続きが原則として非公開であることなどが挙げられます。

自分の抱える紛争に即したADRがある場合は、手続きの利用を検討してみると良いかもしれません。

 

4 裁判上の和解

仮に裁判となった場合であっても、裁判の途中で和解(=話し合いによる解決)が試みられることが多いです。民事事件の第一審訴訟については、実に約37%のケースが裁判上の和解で終結している状況です。(※2)。

和解が成立すると、その内容が和解調書となり、債務名義となります。

 

以上のように、裁判以外で解決する方法は、実は多岐に渡ります。

裁判で判決をもらい白黒をつける、という方法も解決方法のひとつですし、実際にそのような方法を取った方が良いケースもあります。しかし、今回ご紹介したような裁判以外の手続きによって、お互いの何らかの合意や譲歩によって紛争が一応の解決を遂げた場合は、その後の人生の一歩を踏み出す際の心持ちが変わってくるのではないでしょうか。

自分のケースでは、どのような解決方法があり、どの方法が適しているのか、一度弁護士に相談してみることをお勧めいたします。

 

※1 神奈川県弁護士会HP

http://www.kanaben.or.jp/faq/faq13/index.html

 

※2 裁判所HP「裁判の迅速化にかかる検証に関する報告書」

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file4/hokoku_08_02minji.pdf

2021年3月29日閲覧

 

鈴木 志帆弁護士

澄川法律事務所

〒210-0005

川崎市川崎区東田町6-2
ミヤダイビル2階

 

注:本コラムの内容は、掲載当時の執筆者の知見に基づくものです。その内容について、神奈川県弁護士会川崎支部は一切の責任を負いません。

また,執筆者の登録情報も掲載当時のものです。

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