少年事件と弁護士

弁護士 山岸 敦志

 

1 はじめに

皆様は、少年事件という言葉を聞いて、どのようなイメージを持たれるでしょうか?一般の刑事事件と何が違うのでしょう?

本コラムでは、一般の刑事事件と比較しつつ、少年事件の概要や、少年事件への弁護士の関わり方について、ごく大まかにご説明させていただきます。

 

2 事例

イメージをつかみやすくするために、深夜のコンビニで強盗事件が発生したとします。

犯人は逃走しましたが、犯行の一部始終が店内の防犯カメラに映っており、後日、犯人は警察に逮捕されました。

 

3 一般の刑事事件

この時、犯人の年齢が50歳だったとします。

この場合、本件は一般の刑事事件として手続きが進みます。

すなわち、犯人は「被疑者」と呼ばれ、逮捕後に勾留という手続きを経て、検察官によって裁判所に起訴されます。

この間、被疑者は、警察の留置施設にその身柄を拘束されているので、被疑者に代わって、弁護士が「弁護人」として、被疑者に有利な事実はないかを聞き取るとともに、そのような事実を裏付ける証拠を集めます。

そして、起訴後の裁判(公判と呼びます。)の場で、検察官と弁護人が、各々の立場で、事実を主張してその証拠を提出します。

最後に、裁判官が「懲役●年」などの判決を言い渡します。

 

4 少年事件の場合

それでは、犯人の年齢が17歳だったとしたら、どうでしょうか。

少年が逮捕、勾留されるところまでは、大きな違いはありません。ところが、その後、少年は起訴されるのではなく、家庭裁判所に送致されます。

そして、これまで「弁護人」であった弁護士は、「付添人」という呼び方に変わります。

少年は、観護措置といって、身柄を警察署の留置施設から少年鑑別所に移され、本件に至った経緯や、さらにその背景について、様々な調査がなされます。また、家庭裁判所からも「調査官」という方が、少年の調査に当たります。

他方で、付添人も、少年鑑別所に行って少年から話を聞き(「接見」といいます。)、そもそも本件を行ったのか、行ったとすればそれはなぜか、家庭環境は?学校ではうまくやっていたのか?などについて、聞き取っていきます。

さらに、被害者の方(事例でいえば、コンビニ)に対しては、少年が書いた謝罪文を差し入れたり、被害弁償等の申し入れをします。

あまりの恐怖で二度と関わりたくないというご意向の場合もあれば、謝罪文に示された真摯な反省を見て取り、少年の将来を慮ってくださるようなケースもあります。

また、少年が通学していた学校については、何もしなければ退学ということにもなりかねません。

そこで、少年が置かれている状況を、ご両親などの事前の了承を頂いた上で、学校に説明します。

校長等が厳しい見解をもつ一方で、少年と日頃接してその人柄をよく知るクラス担任はまるで反対のご意見をもっていたなどということもあります。

本件を起こした事情についても、実は少年の家庭が極度に困窮しており、生きていくための日銭ほしさに、とっさに行ったものかもしれません(生活保護の申請等については、ひとまず措きます)。

あるいは、少年は家庭で極度の虐待を受けており、家庭に居場所がなく、悪友との交流が深まる中で、そそのかされて行ったのかもしれません。

もちろん、これらの事情があるからといって、本件行為が許されるわけではありません。

しかし、最低限の生活費があったら、家庭での虐待がなかったら、悪友との付き合いがなかったら、本件は起こらなかったのではないか、という考え方もできます。

このように、付添人は、少年が鑑別所にいる間に、被害者の方に対するフォローの他、本件のきっかけや背景となった事情を解消したり、通学先を確保することなどを通して、再度の非行を防ぐ環境を整えていきます。

そして、調査官が作成した調査報告書と付添人が作成した意見書を踏まえて、審判という手続きがあります。

この手続きは、一般の刑事事件と異なり非公開で行われます。

裁判官から少年や保護者に対して問いかけがなされ、調査官や付添人からも適宜発言があった後、少年院送致や保護観察処分といった審判が下されます(懲役や禁固といった刑罰ではありません。)。

 

5 終わりに

このように、少年事件は、一般の刑事事件とは大きく異なる手続きであり、少年の更生環境をどれだけ整えられるかなどについて、付添人はとても大きな役割を負っています。

そして川崎でも、多くの弁護士たちが、少年の将来を守るため、日夜奮戦しているのです。

 

※お断り

本コラムにおいては、イメージをわかりやすくつかんでいただくために、典型的な進行を仮定しています。

実際の事件においては、必ずしも本コラムの記載通りの手続きとならない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

 

山岸 敦志弁護士

弁護士法人ASK新百合ヶ丘オフィス

〒215-0004

川崎市麻生区万福寺1-12-7
山田ビル2階

 

注:本コラムの内容は、掲載当時の執筆者の知見に基づくものです。その内容について、神奈川県弁護士会川崎支部は一切の責任を負いません。
  また,執筆者の登録情報も掲載当時のものです。

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