個人再生における住宅資金貸付債権の特則について

弁護士 村井 健太郎

 

第1 はじめに

個人の債務整理の方法として、主に3つの方法が挙げられます。すなわち、任意整理・自己破産・個人再生の3つです。

任意整理とは、裁判所を利用しない手続きで、各債権者と個別に利息制限法の引き直し計算後の残高について、分割払い等の支払交渉をすることを言います。

自己破産とは、裁判所を利用する手続きで、個人の財産を清算して、借金を支払う義務をなくすことを求める手続きのことを言います。

個人再生とは、裁判所を利用する手続きで、債務の一部カットを受けたうえで、残額について分割支払いをしていく手続きのことを言います。

このうち、個人再生は、主に住宅を所有している方向けの債務整理の方法となります。なぜなら、自己破産では、債務者のほとんどの財産が清算の対象となってしまうのに対して、個人再生では、住宅資金貸付債権の特則(民事再生法(以下「法」と言う。)196条以下)を用いることにより、住宅を手元に残したまま債務を整理できるからです。

今回は、個人再生における住宅資金貸付債権の特則のご紹介と注意点についてご説明していきます。

 

第2 住宅資金貸付債権の特則とは?

上述のとおり、住宅資金貸付債権の特則とは、個人再生特有のルールであり、住宅を手元に残したい債務者の方にとって非常に有用なルールです。

住宅資金貸付債権の特則を使うと、住宅ローン債権と他の債権とが区別され、前者は基本的には今までと同じ内容で支払を続けていくことになります。その代わり、住宅を手元に残すことが許されるのです。

これは、「生活の基盤を失うことなく再生債務者の経済的更生を図る」という趣旨によるものです。

 

第3 住宅資金貸付債権の特則が適用される条件

まず、住宅資金貸付債権の特則が適用される「住宅」ですが、「個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の二分の一以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるもの」を言います(法196条1号本文)。次に、「住宅資金貸付債権」とは、「住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているもの」を言います(同法同条3号)。

すなわち、個人である再生債務者が所有し、住んでいる建物について、その住宅の購入や建設等のために住宅ローンを組み、抵当権をその住宅に付けた場合に、その住宅ローン債権が住宅資金貸付債権となり、特則が適用できるようになります。

 

第4 住宅資金貸付債権の特則を適用する際の注意点

1 現在、借金の返済に困っており、住宅資金貸付債権の特則を活用しようと思われている方に1つ注意点を申し上げます。

現在住む住宅について住宅ローンを組み、抵当権が付いているからといって、すべての場合に住宅資金貸付債権の特則が適用できるわけではありません。

例えば、前の住宅から現在の住宅に住替えをした場合で、現在の住宅ローンに前の住宅の住宅ローンの残債が含まれているようなときには、原則として、住宅資金貸付債権の特則は適用できません。なぜなら、住替え前の残住宅ローンについては、法196条1号が住宅資金貸付債権の要件である「住宅」につき、「再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物」と規定しており、再生債務者が現在居住していない前住宅については同号の「住宅」に含まれないと考えられることから、「住宅資金貸付債権」には原則として当たらないと考えるからです。

すなわち、現在は住んでいない、前の住宅の住宅ローンは、「住宅資金貸付債権」に当たらないので、その残債が含まれている現在の住宅ローンには、住宅資金貸付債権の特則は原則として適用できないということです。

このコラムを読んでいる方の中にも、住替えローンを利用した方も多いのではないでしょうか?その場合には、原則として、住宅資金貸付債権の特則は使えないので、要注意です。

 

2 では、例外はないのでしょうか?答えは、あります。

私が以前経験した案件で、住替え前の住宅ローンが残っており、新たに住宅を購入するにあたって住替えローンを利用していたところ、住宅資金貸付債権の特則が使えるかどうかが問題となったことがありました。前の住宅ローンの残債は、新しく組んだローンの25.4%程度でした。

依頼者は、現在の住宅に今後も住み続けたいという希望があったため、なんとか依頼者の希望をかなえられないかと、私は「住宅資金貸付債権の特例」が使えないか、調査をしてみました。

過去の裁判所の判断においては、現在の住宅ローンが住替え前の住宅の住宅ローンの残債を含む場合でも、諸事情を考慮して、住宅資金貸付債権の特則の適用を認めてきたものもあります。例えば、下記書籍には、「旧建物が老朽化したため同一敷地内に建物を新築した事案について、個人再生委員の意見を踏まえた上、前住宅(旧建物)の残ローンの額が新建物に関する住宅資金貸付債権に占める割合も考慮し全体を住宅資金貸付債権として取り扱った事例や、前住宅における居住環境が劣悪でやむなく転居した事案について、個人再生委員の意見を踏まえた上、前住宅の残ローンの額が現住宅に関する住宅資金貸付債権に占める割合も考慮し全体を住宅資金貸付債権として取り扱った事例があります」と記載されていました。

すなわち、裁判所は、現在の住宅ローンに住替え前の住宅の残ローンが含まれていても、「新築建物を取得するに至った経緯や残ローンの総額が住宅資金そのものの借入総額に占める割合等の個別的事情」により、住替え前の残ローンを含めた全体の貸付債権について住宅資金貸付債権として取り扱うこともあるようです。

他にも、ある裁判例によれば、住宅資金貸付債権に関する特則の趣旨は、経済的な破綻に瀕した個人債務者が住宅を手放すことなく経済生活の再生を図ることができるようにすることのみならず、住宅ローン供与者の貸倒れのリスクを軽減することにより個人が住宅の取得等に当たってローンの提供を受けやすくし、そのことを通じて住宅の購入等を促進することにもあると解されることから、いわゆる「住み替えローン」における旧住宅ローンの借換え部分について、借換え当時旧住宅ローンが住宅資金貸付債権に該当しており、かつ、新ローンを担保するための抵当権が買換え後の住宅に設定されていれば、これを住宅資金貸付債権に該当すると解することは、上記特則の趣旨に沿うものということができ、住宅を買い換えるに当たり、住宅資金貸付債権に該当する借入金の借換えを行い、新たな住宅の購入資金の貸付債権のほかに借換え後の貸付債権を担保するための抵当権が新たな住宅に設定された場合、これらの借入金に係る債権は、いずれも住宅資金貸付債権に当たると解するのが相当である、と判断したものがあります。

そこで私は、まず、過去の裁判例や書籍を調べ、住替えローンの場合にも住宅資金特別条項が適用された例がないか検討しました。そのうえで、裁判所と個人再生委員の先生宛に、上申書を作成し提出しました。上申書には、過去の裁判例等を載せた他、本件における個別具体的な事情(どうしても住宅に住み続けなければならないことや残債の割合、住宅ローンの支払遅滞がなく再生計画案が認可されれば順調に弁済していける見込みがあること、住替え前の住宅から現住宅に引っ越しせざるを得なかった事情等)を記載しました。さらに、個人再生委員や裁判所に評価されたのか分かりませんが、既に住宅ローンの弁済額が残債の額を上回っていたため、今までの弁済によって残債分は完済され、残っているのは現在の住宅に関するローンだけである、という主張もしました。

そのうえで、個人再生委員の先生とも面談し、「本件では住宅資金特別条項を例外的に適用すべき事案である」と説明し、納得してもらうように努力しました。

結果として、個人再生委員の方からは本件について住宅資金特別条項を適用すべきとの意見をいただき、裁判所からも住宅資金特別条項を適用したうえでの個人再生開始決定を得ることが出来ました。

 

第5 まとめ

以上のとおり、個人再生においては、住宅資金貸付債権の特則を使うことにより、住宅を手元に残すことが出来ますが、住替えローン等をしている場合には、原則として、かかる特則を使えない可能性があります。もっとも、例外的に適用が認められるケースもあるので、もしご自身の場合どうなるのか悩まれていらっしゃったら、一度お近くの弁護士にご相談してみてはいかがでしょうか?

 

引用:鹿子木康/島岡大雄/舘内比佐志/堀田次郎著(2017年)「個人再生の手引 第2版」,395~396頁,出版社:判例タイムズ社

 

村井 健太郎弁護士

川崎総合法律事務所

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注:本コラムの内容は、掲載当時の執筆者の知見に基づくものです。その内容について、神奈川県弁護士会川崎支部は一切の責任を負いません。

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