- 弁護士コラム
渉外離婚について
弁護士 田辺 徳子
1 はじめに
夫婦のどちらかもしくは両方が日本国籍を有しない場合や日本国籍を有する夫婦が国外で居住している場合、日本の裁判手続きを利用して離婚することができるのでしょうか。このような離婚を、いわゆる「渉外離婚」と言います。渉外離婚をする際には、在留資格の問題や国境を超えての面会交流の問題などさまざまな問題がありますが、今回はその前提となるどのような場合に日本の裁判所で離婚手続きができるかについて解説をします。
2 日本の裁判所で離婚の手続きができるか?
どの国の裁判所が当該事件について裁判をする権限を有するかについて定めたものを「国際裁判管轄」といいます。この「国際裁判管轄」が日本の裁判所にない場合、日本の裁判所で離婚の手続きを行うことはできません。では、どのような場合に日本の裁判手続きを利用することができるのでしょうか。
日本の裁判所に離婚の訴えもしくは離婚調停を申立てるためには、それぞれ以下のいずれかに該当する必要があります。
(1)離婚の訴え(人事訴訟法3条の2)
- 被告の住所が日本国内にあるとき(1号)
この場合、当事者の国籍を問いません。
- 夫婦双方が日本の国籍を有するとき(5号)
夫婦の一方または双方が外国に居住していても、夫婦双方が日本国籍を有する場合は、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められます。
- 原告の住所が日本にあり、かつ、夫婦が最後に同居した地が日本国内にあるとき(6号)
被告が原告を遺棄して(同居・協力義務を履行せず)、日本外で生活しているような場合には6号が該当することになります。
- 原告の住所が日本にあり、かつ、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情が認められるとき(7号)
7号に該当する事例としては、被告が行方不明の場合や外国で訴訟が提起され判決が確定したものの、この判決が日本では効力を有しないなどの特別の事情がある場合が想定されています。
(2)離婚調停(家事事件手続法3条の13)
- 調停を求める事項についての訴訟事件又は家事審判事件について日本の裁判所が管轄権を有するとき(1号)
- 相手方の住所が日本国内にあるとき(2号)
- 当事者が日本の裁判所に家事調停の申立てをすることができる旨の合意をしたとき(3号)
離婚訴訟と違い、夫婦間で(3)の合意をした場合には、夫婦が国外にいる場合や夫婦が外国籍の場合でも、日本の裁判所において離婚調停を行うことができます。
このように日本の裁判所を利用して離婚を進めようとお考えの場合、まずは日本に国際裁判管轄が認められているかどうかを確認する必要があります。
3 日本の法律が適用されるか?
日本の裁判手続きを利用できるとなった場合、次に問題になるのが、どこの国の法律を適用して事件を判断するのか、いわゆる「準拠法」の問題です。
準拠法は、法の適用に関する通則法27条、25条により以下のとおり段階的に定められています。
① 夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、日本法による。(27条但書)
② 夫婦の本国法が同一の場合は、同一法による。(25条1文)
本国法とは、国籍を有する国の法律を意味します。すなわち、夫婦の国籍が同じである場合、その国の法律が本国法として準拠法になります。
③ ②に該当しない場合は、夫婦の常居所地法による。(25条2文)
常居所とは、人が定住の意思なく常時居住する場所を意味します。
④ ②及び③に該当しない場合は、夫婦に最も密接な関係がある地の法律による。(25条3文)
最も密接な関係のある地であるかどうかは、いままで夫婦の常居所がどこにあったか、子や親族の常居所はどこかの他、言語や職業の場所などを考慮して決めるとされています。
4 日本で離婚手続きをする場合の注意点
以上で見てきたような国際裁判管轄や準拠法の問題をクリアし、日本の裁判所において日本法により離婚の手続きができる場合にも、渉外離婚特有の注意が必要です。
具体的には、協議による離婚を認めず、裁判離婚のみ有効とする国が多くあります。このため、日本で調停が有効に成立したとしても、本国では無効であることもあり得ます。離婚手続きに進む前に、本国の専門家に確認をすべきでしょう。
また、裁判離婚のみ認める国であっても、調停調書に「確定判決と同一の効力を有する」との文言を記載してもらうこと(東京家調停昭和49年8月13日家月27巻6号98頁)で、その国でも有効に離婚が成立したと見なされることもあるようです。
5 おわりに
このようにどちらかもしくは両方が日本国籍ではない夫婦が離婚をする場合、日本の裁判所を利用するためにはさまざまなハードルがあります。ご自分が日本の裁判所を利用して離婚することができるかについては、個々の具体的な事情によって異なります。このため、渉外離婚を取り扱う弁護士にぜひご相談ください。
田辺 徳子 弁護士
澄川法律事務所
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